Kindleの自費出版システム「KDP」は本当に誰でもすぐに出版できるシステムか?

Amazon Kindleと一緒に、KDP(Kindle Direct Publishing)がやってきました。
http://kdp.amazon.co.jp

KDPは、個人が誰でも、アマゾンで電子書籍を販売できるシステムです。アメリカでは以前より「個人の作者がリリースした作品が大ヒットに」や「100万部を販売」とか「印税が70%になる出版システム」などと言われています。

出版社や編集者といった専門業と著者との関係について、「電子書籍では中抜き不要論」が語られるときは、よくこのアマゾンの70%印税が引き合いに出されます。(正直、そういった「中抜き」について「あなたはムダに著者のもらうべきお金を搾取している」と直接苦情られたことは私はないのですが、)まあそれはさておいて、日本のKDPでは、どうやっても最大限35%の印税しか得られないことは、最初に注意しておきましょう。日本は70%の印税が適用可能な国に含まれていないそうです。一方、日本語の本でも他の国に配信でき、アメリカやインドでは、70%の印税オプションを選択することもできます。


KDPは、著者やその代行者が直接対応したフォーマットのデータをアップロードして申請することで、アマゾンで電子書籍を販売することができるシステムです。

誰がKDPを使用できるか?

応募資格は特にありません。電子データが作成でき、アマゾンのアカウントを所有していれば誰でもパソコンから申請できます。

どんな本をアップロードできるか?

アマゾンでは、「コンテンツガイドライン」という決まりが設けられています。「わいせつな内容」「悪意を含む表現」「違法な内容(違法物品の製作または違法行為につながる可能性のあるタイトル)」「流布する権利がないもの(違法なコピーや他人に著作権があるもの、他の会社の権利物など)」といったものに加えて、「顧客満足を得られない商品」とあります。
KindleのアップルのiOSアプリでよく問題になりましたが、アマゾンではポルノ(18禁)はたしか、公開可能です。ただし、ガイドラインにひっかかれば公開できないかもしれません。
また、「顧客満足を得られない商品」はどのようなレベルで判断しているかは独自になるため、詳細はわかりません。実際に試したり、すでに公開されているものを読んだりしてみながら探っていくことになるでしょう。
https://kdp.amazon.co.jp/self-publishing/help?topicId=A1KT4ANX0RL55I

どうやって本を作ればよいか?

いくつかの方法がありますが、ここではごく簡単にまとめておきます。
対応フォーマットは、Word、HTML、EPUB、XMDFです。EPUBの中身に使用しているXHTMLの拡張子を.htmlに変更しても通るようです。これらのいずれかのフォーマットで作成したデータを、「Kindle Gen」というソフトウェアを使ってKindleフォーマット(.mobi)に変換するか、同じようにKDPのサイト内にデータをアップロードした上で自動変換します。
あとは、表紙画像のデータをアップロードし、著者名や概要、価格を設定し、申請する。以上で公開までの手続きは完了です。
申請中は「レビュー中」とサイトに状況が表示され、エラーや問題点があればメールが届きます。また、問題がなければ数日で書籍が公開となります。

Kindleフォーマットについて

ワープロのようにKindle用のデータを直接オーサリングするアプリはないでしょうか? どうもそれは無いようです。.mobiフォーマットのKindle専用のデータをWord、HTML、EPUB、XMDFから変換して作ります。変換するときに、DRMの有無を選択できます。ただし、一度作ったmobiをEPUBのように解凍して修正し、また元に戻すといったような方法も基本的にありません。

このあたりの不自由さから、すでに「思った通りにデータが表示できない」「ワードで縦書きのデータを作ったけどKindleでは違う」などといった質問が出始めています。

mobiについては

Kindleが俄然気になっている
http://blog.livedoor.jp/sdfg158-dbungutecho/archives/1725588.html

EPUBからmobiへの変換
http://blog.livedoor.jp/sdfg158-dbungutecho/archives/1713064.html

このあたりに一度書いているのですが、Kindleのフォーマットは、KF8(Mobi8)という最新版は縦書きに対応、EPUBに対応。ただし、縦書きに関してはEPUB3で表現できますが、現状ではKindle Paperwhiteの新機種からのみ表示に対応します。

Mobi7以下の古いKindleフォーマットは、日本語の横書きに対応はしていますが、組み版表現的にはあまり豊かでもなく、効率的なソースでもありません。ただし、シンプルな表現の文章であれば、十分対応できるとは言えます。

現在は、Kindle用に変換されたデータには、1つのファイル内にKF8(mobi8)ファイルと、下位互換用のmobi7の2つのデータを内包するのが一般的なようです。変換作業を手作業では行えないのでKindle Genで変換しても思ったような表現にならないこともあります。そのためサードパーティのmobi変換ソフトにCalibreなどもありますが、日本語に特化した機能があるわけではありません。

現在iPhoneやiPadで縦組みに対応している販売されているKindle本は、XMDFという日本の以前よりある電子書籍のフォーマット(シャープ製で制作には開発者契約が必要)のようです。「のようです」になってしまうのは、現在Kindleストアで販売されている多くの販売データは、アマゾン側でオーサリング(変換)されているようですが、担当者ではないので詳細が不明なのです(分かった際は追加情報を書きたいと思います)。

EPUB3でのインパクトも実感していますし、縦書きは実際にはかなりニーズがあると私は思います。Kindleの青空文庫は縦書きになっているので追って状況は変わってくるのかも?しれません。ただ、日本向けにフォーマットやアプリが拡充されるとかいったことはあまり期待できないかもしれませんが……

おっとまた余談になってしまいましたが、フォーマットに関して細かい部分ではいろいろなハックが必要になりますが、大まかにしかいじれない部分、悩む部分もそうはありません。

どのアプリでデータを書けばよい?

オーサリングチームがいるわけでは無い個人が、コラムや小説を書いてアマゾンで販売したいと考えている場合、いくつかの方法が薦められます。

もっとも簡単そうなのがWordです。私はWordをほとんど使いませんが、原稿を書く場合にWordを使用している人は多いでしょう。その原稿が出来たら、そのまま変換すればよいのですから、簡単です。基本的な注意としてはフロート要素は容認されないので凝ったレイアウトはしないようにしたほうがいいでしょう。また、Word形式のファイルはKF8の新機能を最大限に活かせるようにはなっていないようです。そのため、より美しい表現を細かくしたいと考える場合は、HTMLやEPUBを用意することを検討する必要もあるかもしれません。ただし、横書きの文章を読ませるだけであれば、Wordで十分だと思います。

次に簡単そうなのが、EPUB書き出しに対応したワープロソフトを使うことです。ウィンドウズなら一太郎、MacならばPagesを使うことです。一太郎はEPUB3対応で、PagesがEPUB2対応と、対応する内容は異なりますが、どちらもオーサリングが不要で書くことに専念できます。出来上がったデータをEPUBとして保存(書き出し)し、Kindleフォーマットへ変換します。

実際に試したところ、Pagesで多数の画像を入れていくと、どこかの段階から画像が表示されなくなってしまいました。ファイルを分割する(「タイトル」を指定する)ことで会費できますが、ファイルの構造上は問題になる場合があるといえるでしょう。

わたしは、書くことに集中していのであれば、これらのWysiwygツールがよいと思っています。

HTMLを使用する方法もあります。もしオーサリングができればHTMLも良い方法かもしれません。ブログからHTMLを書き出して加工する可能性もあります。この場合は、すべてのタグがサポートされているわけではないことをあらかじめ調べておく必要があります。ただ、HTMLの場合は、ファイルを分割するところが大変になってくるように思います。目次も自動的に作れませんのでより作業量は増えるのではないかと思います。

誰でも簡単に出版可能か?
どの程度の手間とレベルが必要かを知りたかったため、簡単なコンテンツを作成し、KDPで申請してみました。その結果、私自身は思ったより簡単に出版が実現できると感じました。コンテンツはPagesで作成し、EPUBにしたものをKDPのサイトへアップロードして変換しました。数日後にデータは公開されました。以下の本です。



iPhoneで30ページ程度の短いテキストです(画像入り)。100円が最低価格なので100円で申請しました。1度「著者名が入っていない」という指摘で審査チェックが入りましたが、それ以外はなにもなく、アップロードから2日程度で公開できました。

データの制作には執筆時間もかかりますが、短いものだったので1日で作成しました。 1日で制作して2日で公開可能であれば、「誰でも手軽に出版できる」と言えるのではないでしょうか。

どの程度立派な見栄えの本にするかについては、もっと手間をかけることはできるでしょう。作って販売できる状態にするのと、売れるようにするのはまた別問題です。Kindleの本もどんどんと数が増えていけば、ただ出しただけでは本を見つけてもらうこともできなくなります。カバー画像で興味を引くことや、ページ内のデザインなどがキレイなことは『買いたい』と思わせるひとつの要素になるでしょう(Kindleも、立ち読み機能もあるようです)。

また、今回は試しませんでしたが、InDesign CS5.5以上やQuarkXPress9もEPUB3に対応しているので、Kindleで利用できるデータが用意できそうです。引き続きKDPの情報を集めていきたいと思います。