インドの電子決済について調べてみた
インドの電子決済の利用について、調べていこうと思って書いてみました。
以前、中国のQR決済が話題になり始めたころに体験記事を書きましたが(深圳ではないところがまたあれですが)、QR決済はその後、ソフトバンク率いるPayPayの強力なプッシュをきっかけとして日本でもすっかり定着しましたね。QR決済は、支払いを受ける側の導入のためのハードウェアが不要で、QRコードの紙1枚あればあとは特殊な機材も要らないという強みは、いまでも多いにあると思います。お客さんにはそこまでの利便性はなくなってきているかもですが。あとPayPayは決済手数料も上がったみたいですね。
日本でQRが普及するまでにクレジットカードのタッチレスの電子決済が普及しなかったのは、NFCを使った立派なタッチレスのシステム(FeliCa)がかなり普及していたからだと思うんですね。でも欧米でタッチレスが普及して後追いで日本も対応、電車の改札もクラウドまで読みに行くそうで、エッジ処理じゃなくなったそうですが、クレジットカードで電車に乗れると外国人が楽です。そんなような流れも、各国の事情を見ることでいろいろ学んでいけるように思っています。
ルピーについて
インドの通貨はインドルピー(INR, ₹、1ルピーは100パイサ)です。2024年11月21日現在では、1ルピー=1.84円となっており、だいたいルピーの価格に2を掛けて考えると相場が円で考えられて楽そうですね。ちなみに円に対しては、10年前もあまり変わらないレートだったようです。ごく最近の話だと、7月以降少しルピー安気味のようです。
対ドルで見ると、ルピーは近年かなりルピー安が進んで価値が下がってきているようです。ケタが小さくて見づらいですが、ここ10年で5割程度安くなっているようですね。10月にも最安値を更新しました。11月21日現在は、1ドル84.40ルピーで、底値とされていた84ルピーからさらに進んでいます。これに対し中央銀行も介入していたようで、なんだか日本にも似ている(インドは石油を輸入に頼っているため、石油価格との連動も強いのだとか。それも似ている)。
そんな円とルピーですが、そもそも日本国内ではルピーへの換金がほとんどできず、空港など限られた場所で両替することは可能でもレートが悪いという状態だそう(必ずしも事前にドルに換金しておかなくても、インドの大きな国際空港、ホテルなどであれば、円からルピーへの換金が可能だそうです)。
一方出国の際も、インドは外国人によるルピーの持ち出しを禁じているため、出国前に空港などで再両替する必要があります。
出国に際して余った現地通貨を外貨に再両替する場合には、現地通貨を購入したときに銀行が発行する外貨買取証明書(Encashment Certificate)の提示を求められますので、この証明書は保管しておくことが必要です。また、外国人が現地通貨で、ホテル料金を支払ったり、高価な買い物をしたり、インド国内において航空券を買う場合も、同証明書の提示を求められることがあります。(外務省 海外安全ホームページ)
ルピー札は継続的に偽札の危機にさらされており、その対策の一環として2016年11月9日に、突如高額紙幣の500ルピー札と1000ルピー札が廃止され使えなくなりました(旧札の価値を失いたくない場合は、銀行で毎日10000ルピーずつ交換しなければならなかったそうです)。唐突とも言える対策の狙いの名目は偽札とブラックマネーの一掃ですが、じつはキャッシュ社会と言われるインドでは長らく銀行にお金を置いてない人がいて、そのタンス貯金(と税金逃れ)もあぶり出す狙いがあったとか(と「旅行人no.66」で読みました)。
しょっちゅう起こるとは言えないにせよ、ある日突然手持ちの資金であるキャッシュが使えなくなるようなことがあればかなりのパニックが予想できます。また旅行では、そもそも盗難の心配もあるので、あまりキャッシュは持ち歩きたくないものです。
インドのデジタル決済はQR決済が伸びている
もちろんインドでもデジタル決済は推奨されているようです。では、どのようなサービスが主流なのでしょうか。調べてすぐ出てきたのがPaytmです。
Paytm(ペイ・ティーエム)
2010年に創業した電子決済サービスで、3億5000万人のアクティブユーザーをもちます。ソフトバンクVision Fundも出資しています。2013年にプリペイド式のケータイ決済「Paytm Wallet」をスタートしたのを皮切りに、現在は以下のようなことができるようになっているそうです。
- インド鉄道、Uberの支払い
- 教育費支払い
- 地下鉄チャージ
- 電気/ガス/水道料金の支払い
- 金の購入などの資産サービス
- 事業者向けサービス(Business with Paytm Appカード決済金を銀行で手数料無料で受け取れる)
- クレジットカード(Paytm First)
送金に手数料がかからないのが大きなメリットのようです。あとで出てきますが、国の考えたシステムだからなのでしょうね。
ただ、いい話だけでなく、Paytm Payments Bankの事業は顧客情報漏洩や個人情報確認の不備などを理由に停止命令が出るなど問題も出ていたよう。現在は回復基調のようです。
このPaytmの普及の宣伝で、当初、アメを使ったキャンペーンがあったそうで、面白かったので以下にリンクを張ります。インドでは、おつりがいつも不足していて、おつりが戻ってこない。足りないから代わりにアメちゃんがもらえたりするようですが、お客さんはまあ不満ではあるわけですよね(小銭がないと戻ってくるお金がないと言われると大変そう)。なので、キャンペーンとしてお店の店頭にPaytmのredeem(ポイント的なもの)のコードを印刷した紙に包んだアメを配って、いつものアメちゃんの代わりにお店で配って貰ったそうです。お客さんはアプリをインストールするとPaytmマネーがもらえるので、36%の人がアプリをダウンロードしたとか。
Paytmのアプリは日本でもダウンロード可能です。
ただし、サービスサインアップするにはインド国内の電話番号(+91で始まる)が必要です。また、インド国外では送金などもできないようになっています。仕組みとしてはインド国内の銀行口座と連結してスマホアプリにチャージを行うようなので、クレジットカードで課金したい放題のサービスとは使い勝手が違い、国外在住者や旅行者にはいまのところ使えないもののようです。
↓こちらの方などがくわしく使ってみているのが参考になりました。ソニー銀行のデビットカード利用できるのかな??
使い方は基本QRスキャンで支払いですね。もともとは中国インスパイヤードなのかな。
Wise
次、クレジットカードですが、ホテルやレストランやバーで使えるところは多いということ。しかし現在カード決済はQRにおされ気味なのだそうです。また、外国人利用者としてもクレジットカードのレートは少し悪いのが気になります。そこで、海外送金で一番安いWiseはどうでしょうか?(あとから出てきましたがUPIのチャージの際の為替レートは必ずしもキャッシュに比べて良いわけではないようです)
Wiseはイギリスに本拠地となる、P2Pで手数料ほぼ無しで海外送金できるサービスです。2021年7月にロンドン市場に上場しています。口座を開くと無料でデビットカード機能を利用できるようになり、スマホから送金だけでなく、海外での支払いで使えます。また、有料で物理カードの発行も可能です。
世界中の通貨に対応しているWiseならインドでの支払いにも使えるでしょうか?
サービスサイトによれば、ATM出金、 店での支払い、チケットなどのオンライン決済に使えるようですが、Wiseデビットカードのスマホ決済はNFCを使用したコンタクトレス決済になるので、タッチレス端末が普及していないことには使えないようにも思います。有料のデビットカードを使えば、ICチップ(EMV)付きのデビットカードとして使うことができるので、利用できる場所が増えそうです。
Google検索してみると、2021年末のVisaタッチの普及率は16%だとか。2022年のタッチ決済端末導入台数は600万台。Apple Payもインドでは使えないなどあり、どうもスマートフォンのタッチレス決済はあまり使えないかもと考えておいたほうがよさそうでした。
Google Pay
ロンリープラネットによれば、レストランなどはクレジットカード(物理カード)を使えることが多く、露天や小さな小売り店ではPaytmのようなものが優勢と書かれていますが、並行して、インドだと日本では提供されていないGoogle PayのQR払いが。このQRコード、
「UPI QRコード」と呼ばれているのですが、
UPI (Unified Payments Interface)とは、インド決済公社(NPCI)が2016年に提供を開始したサービスで、直訳すると「統合決済インターフェース」を意味します。(PROVEより)
とのことで、QR自体は他と変わらないかもですが、UPIという国が主導するインフラが形成されているということなんですね。(余談ですけど、利便性の高い送金システムにはやはり個人認証が欠かせなく、そうなるとデジタル個人認証とセットで動くということなんですね。中国しかりです)最初に紹介したPaytmもUPI対応です。
しかし、このUPI決済、Paytmでなく8割がアメリカ企業(Google Payと、WallmartのPhonePe)で締められているということ。以下の記事では、PhonePeが2024年8月にUPI流通額の50%を占めたとあります。Google Payは37.4%なので、ほぼ9割がアメリカアプリ……!
PhonePe captures 50% UPI market share by value in August
PhonePe(フォンペ)というアプリは初耳ですが、ウォルマートが日本には無いこともあり、まず日本から使い始めるのは難しそうです。インストールしてみたのですが、登録電話番号は、インド、アメリカ、アラブ、イギリス、サウジ、カナダ、カタール、シンガポール、オーストラリア、オマーン、マレーシア、フランス、ホンコンでした…
ということは、海外旅行者であれば、いったんGoogle Payの利用ができるように調べておくのがよいでしょうか? …と、思いきや、Google PayってAndroidしか使えないですね(笑・iPhoneでは使おうと思わないから気付かなかった)。ヘルプでは、「UPI International」機能がGoogle Payでも利用できるという噂です。でも手数料がかかるし銀行も対応銀行は限られているようです。
いったんGoogleのヘルプとコマーシャルを貼っておきます。コマーシャルの解説としては、「Google PayのQRが張っていないお店でしたか? でも大丈夫。UPI QRがあればGoogle Payで払えます、ということだそう。
日本ではあれこれあれこれQRが貼ってあって面倒ですが、アプリはバラバラでも支払いルートが同じって、本来は理想的ですね。
旅行者向けのUPI利用
結局ここまで調べて、書く順があまりよくなくなってしまったことに気づきましたが、インドでは小規模店では、QRコードを使ったUPI決済が優位ということはわかりました。NPCIの説明では対応店舗数は、5,000万店だそうです。UPIは国産テクノロジーですし推し甲斐ありますよね。
でも、UPI 対応の決済アプリを使うには(電話番号もですが、SIMを買うとしても)、そもそも銀行口座連結が必要です。
ただし、制約はあるものの、2023年1月より、旅行者向けにUPIの利用が開放されたようです。
NPCIでは2024年現在、次のように紹介されています。
- サービス名:UPI One World
- 提供元:NPCI(National Payments Corporation of India)
- 提供開始:2024/7
- 発行場所:空港、ホテル、両替商などの公認のPPI issuerで発行できる(Full KYCが必要)
- パートナー:IDFC FIRST Bank, Transcorp
こちらの利用については、IDFC FIRST Bank, Transcorpで本人確認と両替を行うということであってるだろうか。また、チャージについては、IDFC First Bank か ICICI Bankでチャージする必要がありそう。クレジットカード登録できないんですかね?それならcheqのほうが良さそうですね?
アプリはそれぞれ別なのか?
実際に使われた方だとCheqというのを使われてますね…! データSIMに電話番号がないというのもなるほどそうなんだ…日本は番号つくけど、SMS音声なしってことかな…?
(逆にこういうときはUPIは多数のプレイヤーがいるのでややこしいですね…)
イラストをみるとnamaspay、Monyというのもありますね。UPIタイプアプリは非常にたくさんあるようなのですが、ベースは電話番号と銀行口座という2つの国内情報が必要になるサービスなので、外国人が使えるものが限られ、知名度が低いのでどれがいいというところまで来てないのかも。
補足として、発表された2023年当初のリリースで出ていたサービスは、Thomas Cookの空港カウンターで行えるということで、こちらはpine labsのfaveというアプリを使うっぽかった。こっちの情報のが古いのですが流れとしては
- 発行者のアプリをダウンロードしサインインする
- パスポートとビザなどの物理的な資料を発行者カウンターで認証を行う
- UPI One World を海外携帯番号で発行する
- INR (インドルピー)を以下のどちらかの方法でチャージする
- a. 外貨を発行カウンターで渡して入金してもらう
- b. クレジットカードモード、デビットカードモードを使う
- チャージした分のお金はお店で使える
- 残ったお金は、出国前になら両替し直すことができる
空港にカウンターあると便利そうだけど
本日はいったんここまで。実践編は来年なのでまだ先です。